東京高等裁判所 昭和32年(く)112号 決定
被告人 山崎弘こと名倉定一
〔抄 録〕
本件抗告の要旨は
申立人(被告人)は、昭和二九年一〇月一日東京北簡易裁判所において窃盗、賍物寄蔵罪により、第一の罪につき懲役一年六月、第二の罪につき懲役一年六月及び罰金千円に処する。右罰金を完納することができないときは、金百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。未決勾留日数中百五十日を右第一刑に、二百日を右第二の懲役刑に算入する。訴訟費用(被告人の国選弁護人費用)は全部被告人の負担とする旨の判決を受け、同判決は確定して目下その刑の執行を受けている。ところで、右確定判決に認定されている犯罪事実第一の罪の犯罪一覧表記載の1から145件までのうち約九〇件及び第二の罪の犯罪一覧表記載の1から16までのうち四件はいずれも自分の犯行ではないという明らかな証拠をあらたに発見した。すなわち、前者については当時千葉県の印旛少年院に約一年間収容されていたし、後者については戸塚警察署に留置されていたことが判明したので、これらの期間に犯したと認定された犯罪事実につき無罪の判決を受けたく再審の請求に及んだのである。しかるに原裁判所は右不在証明の事実は証拠のあらたな発見とはいい難く再審の理由とはならないとして右請求を棄却した。しかしながら申立人としては、当時の捜査情況及び事件の複雑性に起因する自覚の不確定によつて不在証明の証拠を主張しなかつたものであつて、現在の自覚としては無罪を証拠づけるあらたな事実の発見である。また原裁判所が理由第三の(六)に「判決の確定力が法秩序の維持と裁判の威信とに甚大な影響を持つものである点についても考慮を払うべく、法は一度確定した判決は唯真実に相違するとの理由のみにては再審理を許さず」として実体的真実を無視するによつて刑事法の根本原則に違反するも止むを得ざる旨判示しているのは明らかに裁判所の独断であつて承服できない。それ故原決定を取り消して再審開始の決定を受けたく抗告に及んだ次第であるというのである。
ところで、右不在証明について審究するに、右各事実に対応する証拠として同確定裁判記録に綴られてある関係被害届、実況見分調書などをしさいに検討してみると、その大部分が各被害直後に作成せられたものであつて各原判示犯罪の日時に誤なきものとみられるので、これら犯罪については被告人の不在証明が成立するものということができる。しかしながら、およそ、本案の審理においてことさら、その証拠があることを知りながらこれを提出しないで有罪判決確定後その証拠を援用して再審を請求をする場合は、刑事訴訟法第四三五条第六号にいわゆる「証拠をあらたに発見したとき」にあたらないと解すべきである(昭和二九年一〇月一九日最高裁判所決定参照)本件においてこれをみるに、申立人(被告人)は、本件確定裁判の本案の審理を受けた当時において前示(イ)の期間印旛少年院などに収容または留置されていて外部に出ていなかつた事実は覚えていたのであるが、右事実を不在証明として主張すれば、余罪が発見して追起訴されるおそれがあつたところから、ことさら右事実を主張しなかつたものであることは当審における受命判事の申立人審尋の結果に徴しても明らかである。しからば、右裁判の確定後において右証拠を援用して再審の請求をするのは、前説示のごとく刑事訴訟法第四三六条第六号所定の「証拠をあらたに発見したとき」にあたらないというべきである。
(中野 尾後貫 堀真)